弁護団コラム

JTU弁護団コラム(第6回) 「法教育」シリーズ1

2022年02月22日

「法教育」って?-消費者教育編-

今年の4月から成年年齢が18歳に引き下げられることが決まり、また、新学習指導要領が小、中、高と順次スタートする中で、「法教育」の重要性がこれまで以上に高くなっています。
皆さんの中には、早くから法教育に関心を持ち、実際に何度も授業を経験しておられる方もいらっしゃる一方、「法教育=難しそう」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。法教育は知識を教え込む教育ではなく、多角的なものの見方を身に着けるための教育だとされていますが、それでも漠然としていますよね?コラムを通して、少しずつご紹介できればと思っています。

さて、初回となる今回は、消費者教育編です。
繁華街や駅で声を掛けられてお喋りしているうちに、名前や連絡先を交換してしまう、学生を名乗る人から「調査に協力してほしいので、アンケートに答えてください」と言われて個人情報を伝えてしまう、その結果、高額な物を買わされたり、いかがわしい仕事をさせられそうになったりetcといった経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。
私自身、軽率な性格も相まって、上記の他にも、ボランティア団体だと思って泊まりがけで出かけたら特殊な団体だった、「あなたの後ろに霊が見える」と言われて知らず知らずのうちに洗脳されそうになる等、自慢ではありませんが様々な手口に何度もひっかかりました。おそらく私ほど消費者事件の被害者の気持ちが分かる弁護士はいないでしょう(やっぱり自慢?)。
民法は、未成年者が法定代理人(親権者・後見人。つまり、保護者のこと)の同意を得ないで結んだ契約は、原則として取消しができる、と定めています。10代の私を救ってくれた制度の1つが、この未成年者取消権でした。

<民法第5条1・2項>
1 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

さて、今年4月からの成年年齢引下げに伴い、18歳に達すると保護者の同意なく自由に契約を締結できるようになります。後から「しまった!」と思っても未成年者取消権を行使できないので、契約は責任が伴うことをしっかり理解しておかないといけません。
また、前述のような悪徳商法は、時代が下っても手を変え品を変え登場し続けます。2001年4月に消費者契約法が施行され、その後も改正の度に消費者保護のための制度が導入されてきたにもかかわらず、被害は後を絶ちません。今は、インターネットがらみの消費者トラブルが主流となり、以前に比べ、学生や若者からの相談を受けることも多くなりました。今後は、18歳になったばかりの成人を狙った業者も増えてくるかもしれません。
ただ、法教育は、多角的なものの見方、考え方を学ぶことを目的としますので、一方的に、「契約は責任を伴う」「悪徳商法に騙されるな」といった内容を教え込む授業では、その目的は達成できません。第一、契約についても悪徳商法についても、年齢や経験からイメージがわきにくいでしょうし、実際に、多くの児童・生徒は自分には無関係のことだと受けとめてしまうはずです(昔の私のように)。

私たちは、日々何らかの契約を繰り返ながら生きています。社会は契約であふれており、様々な事情による不履行もあれば、複数の人が関わるなかで解釈の違いや立場に応じた言い分も出てきます。関係者のエゴや情、個人的な状況が絡まりあって、複雑なドラマを見せてくれることもあります。私自身、大学では芸術分野を専攻していたのですが、在学中に民法について学ぶ機会があり、契約の面白さにすっかり魅了されました。
そこで、法教育の授業を行う場合、例えば、「ペットショップで可愛い子犬を買い、ポン吉という名前を付けてかわいがっていた。ところが、1か月後、ポン吉に生まれつきの深刻な病気があることを知った。さて、あなたはペットショップにどんな要求をする?」、「Aさんは、家族で旅行に行くことになったので、友だちのBさんにインコのピースケを預かってもらいました。しかし、Bさんはうっかりピースケを逃がしてしまいました」といった身近な契約事例をもとに(今、私がこの場で考えた安直な事例ですが…)、いくつかの事情をくっつけて複雑にして、児童・生徒に様々な視点から検討し、話し合ってもらいます。このような中で、契約に興味を持ってもらい、あわせて、契約に伴う責任の重さや、安易な契約の恐ろしさも感じ取っていただけたらと願いながら授業をしています。

社会の一員として幸せに楽しく人生を送るために、消費者教育は老若男女すべての方に受けてほしいですが、できれば、自由に契約を結べる年齢になる前に、年齢に見合った学びの機会を持ってほしいと思います。
私は所属する弁護士会の法教育委員会の一員として、法教育の出張授業やイベントを通した生徒・児童との触れ合いを楽しみに日々活動しています。各都道府県に置かれている弁護士会のほとんどが法教育の出張授業に対応していますし、裁判所でも法教育のイベントを開催することもあるようです。ご興味があれば、調べてみてくださいね。
 
【参考】東京の場合は、第二東京弁護士会・法教育委員会 
     

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