弁護団コラム

JTU弁護団コラム(第7回) 「法教育」シリーズ2

2022年03月22日

「法教育」って?-模擬裁判編-

皆様が法教育の授業で一番イメージしやすいのは、おそらく模擬裁判ではないでしょうか。私の印象ですが、生徒たちに一番ウケがいいのも模擬裁判の授業で、イベントをすると多数の応募があって高倍率の抽選になることもあります。ドラマの影響もあるでしょうし、特に子どもたちは謎解き系が好きですよね。
模擬裁判では、生徒に劇や動画を見てもらい、裁判官や裁判員になったつもりで、被告人が有罪か無罪かを判断してもらうこともあれば、弁護人役や検察官役に分かれて、証人や被告人に反対尋問・質問をしてもらったり、それぞれの立場から意見を述べたりしてもらうこともあります。生徒自身が劇をすることもあります。
模擬裁判には、アリバイ証人や目撃証人も出てきます。証人の証言や被告人の供述が信用できるかを班やグループで検討するのですが、その中で、「あれ?」と疑問に思う箇所が必ずいくつか見つかります。これらの点は、角度を変えると被告人に有利にも不利にもなったりするので、頭は使いますが、とても楽しい作業です。
モジモジしてしまい、班内でうまく意見を言えない生徒が、実は誰も気づいてない点に気付いてメモしていたり、悪ぶって授業を聞いていないふりをしている生徒が、実際には証言をよく聞いていて、ぼそっと鋭い意見を口にしたりします。班の仲間も感心して、また議論が盛り上がったりするので、グループワークのよさが発揮される授業でもあります。
最後に、班やグループごとに有罪・無罪の結論とその理由を発表してもらったり、検察官・弁護人として論告・弁論をしてもらったりします。前者については、もともと、有罪か無罪かはっきりしないように教材を作っているので、生徒の結論も分かれます。模擬裁判の授業後に、たいてい聞かれるのは、「結局、被告人は犯人だったの?」という質問です。真実は1つのはずなのですが、実際には作成者にもわからない、永遠の謎です。
さて、ざっと模擬裁判の授業についてご説明しましたが、この授業の目的は、裁判の仕組みや、裁判員とは何かについて知ってもらうことではありません。もちろんこれらについても簡単に説明しますが、授業の主眼は別のところにあると思っています。
個人的な話となりますが、私は弁護士になってすぐに、えん罪事件(しかもすでに死刑を執行されてしまった)の再審請求にかかわりました。当時の関係者たちが、「彼は犯人ではなかったのに、自分の証言のせいでこんな結果になってしまった」と涙を流すのを見て、えん罪の恐ろしさが身にしみました。その後かかわった刑事事件・少年事件でも、目撃者を探し出すなど奔走して無罪となった件もあれば、取調べ中にした「自白」を覆せず、残念ながら有罪になってしまった件もあります。
ちなみに、実際には何もしていなくても、人は簡単に「自白」してしまうのです。私も、ある警察署で警察官たちに囲まれ、「彼(少年)が実際何もしていないことはわかっている。でも、どうせ軽い事件だし、認めれば早く家に帰れるんだから、自白させるように促すことが弁護士の仕事だろう」と諭されて驚いたこともあります。世の中にはえん罪がどれだけ多いことか・・・。
ということで、刑事裁判では安易な事実認定は絶対に許されません。「疑わしきは被告人の利益に(無罪の推定)」「証拠裁判主義」という原則の下で、論理的な思考能力や分析力を駆使して、事件に向き合うことが必須となります。模擬裁判の授業の主眼も、このような体験をしてもらうことにあると思っていますが、こうした論理的な思考能力や、多角的に分析をする力は、生徒が将来、どの分野で仕事や研究をするにしても、きっと役に立つものとなるはずです。
成年年齢引き下げに伴い、18歳であっても裁判員に選ばれる可能性があります。その影響か、最近、学校から、模擬裁判の出張授業の要請がとても多くなっています。各地の弁護士会では出張授業もやっていますし、春休みや夏休みにイベントをしているところも多いので、ぜひ調べてみてくださいね。

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