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熊本地震から2年・・復旧復興に向けて課題多き現実

2018/04/12

写真 まだ復興道半ば

写真 子どもたちの通学路も変更を余儀なくされた

1.はじめに
熊本地震から2年となる。今年⒉月4日の熊本日日新聞の「余論」というコラム欄に「地方への視線」と題した文章が掲載された。このコラム、沖縄の米軍ヘリ不時着事件に関して「それで何人死んだんだ」というヤジを発したことで更迭された内閣府の松本文明副大臣の紹介から始まる。実はこの松本氏は熊本地震の際に初代の政府現地対策本部長だった人物であるが、このときも「みんな食べるものがない。これでは戦うことができない」と述べ、当時の防災担当相に自らへの差し入れを求めたことが不適切とされた人物である。そして、コラムの文章は続く・・「二つの発言に通底するものがあるとすれば、地方を見る視線の冷たさであろう。中央の自分と地方の当事者の間に厳然と一線を引き、連帯感や共感を欠いているように見える。その意味で『何人死んだんだ』は熊本の被災地に向けられたかもしれない言葉だ。言葉にならずとも『東日本大震災並み』の特別立法を求める要望活動で上京し、そんな無言の圧力を感じた人もいたと聞く。特別立法を求める声は、一昨年夏の参院選を経て急速にしぼんだ。その背景には表面的な被害の大小にしか注目しない中央の視線があるのなら、犠牲者はもとより被災者一人ひとりの人生を軽んじているといえよう」という指摘がされている。大いに同感する内容である。
熊本地震本震(2016年4月16日)が起きた布田川断層帯の布田川区間は、30年以内に大きな地震が発生する確率は「ほぼ0%から0.9%」とされていた地域である。2,000の活断層が存在する日本において、今後日本中どこでも大きな地震が起こる可能性があることを証明したわけで、「何人死んだんだ」という被害の大小でその後の支援のあり方を決めてしまうような国のありようは、被災自治体の復旧復興に大きな影響を及ぼす。熊本地震の教訓とは、日本全国どこまで地震が起こりうるという現実であり、それゆえに今後の災害に備えた政府の支援態勢を恒久化することが今求められていると思う。

2.地震被害から2年目の厳しい現実
全国的には熊本地震に関するマスコミ報道も少なくなり、日常の生活が時間の経過とともに少しずつ取り戻されていく中で、被災の度合いによって県民間、地域間の意識の差も見られるようになっている。
先日、毎日新聞が県内全市町村教育委員会に取材し、今年2月末現在で就学援助を受けている小中学生のうち、熊本地震の被災で経済的に苦しくなったため就学援助を申請し、認定された児童生徒数は11市町村で1,412人にのぼったと紹介し、特に震度7の激震を二度受けた益城町では同町の小中学生の4分の1にあたる775人であった。16年度は766人であった益城町なので、17年度になって微増している。甚大な被害を受けた同町の被災者にとって、生活再建がままならず長期化している現状が見えてくる。
また、地震から2年が経過して、体育館などの工事は優先的に進められ、集会や部活動、体育の授業等で不自由な生活を強いられていた生徒にとっては若干の改善は図られた。しかし、全般的には学校施設の復旧工事は受注業者が決まらない「入札不調」が続いている事態にあり、復旧工事の遅れが懸念される。その背景には、人件費や資材価格が上昇し、技術者も不足している現実があり、「安ければ職人が集まらない」という事情は⒉年経過した今も続いている。熊本市内に2019年4月開校を予定している熊本はばたき高等支援学校については、校舎工事入札が4回も不成立で、来年4月までに工事が完了しない状況にある(県教委は隣接する熊本聾学校などの空き教室を利用する代替案を検討中)。規模が大きく工期が長いため、その間に人件費や資材が高騰するリスクを恐れて業者が手を挙げない状況にある。
このような状況は、仮設住宅やみなし仮設住宅で生活している方々(18年1月現在17,507世帯)の住まい再建にも同様に見られる。すなわち、仮設住宅入居者のうち60%の方々が、原則⒉年の仮設入居期間について延長を希望しておられ、その理由として期限内の住宅再建は困難と回答されている。ここにも自宅建設業者の不足や工事の長期化などが影響している。
また、県内の公立小中高校と特別支援学校の児童生徒の中で、熊本地震の影響で心のケアが必要と判断された児童生徒は、地震発生当初が4,277人で(特に被害の大きかった地域の学校では2~3人に一人が該当)、2016年11~12月の調査で1,247人、17年5~6月調査では1,753人、17年9~11月調査では2,086人と増加に転じ、18年2~3月調査では1,768人とやや減少したものの、被害の大きかった地域を中心にまだまだケアが必要な児童生徒が数多くいる状況である。また、低年齢層への影響を裏付ける調査結果も明らかにされている。0歳の親、1歳半と3歳の親子を対象とした調査では、地震で大きな被害を受けた地域は他の地域に比べて精神的な影響を訴える親子が多かった。「親の後追いがひどくなった」「必要以上におびえる」「暗い場所などを怖がる」「夜泣きが多くなった」などの訴えが多かったそうだ。いずれにせよ、心の傷は簡単に癒やすことはできない。継続的に見守り、寄り添っていくような支援態勢が求められている。
「創造的復興」という言葉がよく使われる。23年前の阪神淡路大震災の時に生まれたこの言葉は、「震災前の状態に回復させるだけでなく、新たな視点で地域を再生させる」という意味で使われている。しかし、その一方でインフラ関係の整備復旧の「新たな視点」ばかりが先行して、「人間の復興」がおろそかにされていく懸念もある。住み慣れたふるさとを離れて、みなし仮設住宅で生活する方々の孤独死が、熊本地震後によく報道されることもしかりである。「仮設住宅の入居期限(⒉年)があることを行政が強く言い過ぎている気がする」と、神戸市のNPO代表が指摘されていることも「人間の復興」に関する懸念の一つである。真の「創造的復興」とは何か、そこに人が住んでいることを忘れた復興であっては断じてならない。

3.被災地の子どもたち・教職員のいま
熊本地震後、九州中央病院の協力により「熊本地震に伴う教職員の健康調査」が実施されており、IES-R(改訂出来事インパクト尺度といわれるPTSD〔心的外傷後ストレス障害〕の症状をチェックするもの)の得点でどのような傾向が見られるかを県教委は調査をしている。16年度よりも17年度は、得点が下回っているが、被害が大きかった地域で勤務する教職員に関しては得点が依然として高い傾向にあり、特に女性教職員の改善度合が低い。職種別では養護教諭のみが前年度を上回っており、高ストレスの状況が続いている。これは、心のケアが必要な生徒への対応等について日常的に養護教諭が担っている現状が垣間見えてくる。また、教職員をめぐる状況も被災地を中心に多忙化に拍車がかかっており、自分のことはさておいて身を粉にして動いてきた教職員の心のケアも大切である。しんどい時に悩みを相談できる職場体制づくりも求められる。
子どもたちの状況はどうであろうか。2017年5月、熊本県人権教育研究協議会総会において、益城町の学校に勤務する教職員から、熊本地震後の学校現場の状況が以下のように語られた。

「今年4月から益城町の小学校に勤務している。赴任して1ヶ月経過し、子どもたちもいろいろなことを話してくれるようになった。しかし、子どもたちのくらしの中にある差別の現実がまだよく見えていない。熊本地震後にやむをえず同じ町の別の小学校に一時期通っていた子どもたちが何名もいたが、彼らは行った先の学校でいじめを受け、仲間外しをされたことを話してくれた。なぜそうなったのかを明らかにすべきだが、教職員も多忙の中で疲弊している。子どもの思いがつかめていない。今も元の学校に戻っていない子どももいる。その子たちのことが心配だ。また、熊本市内などのみない仮設住宅から親の送迎で通学している子どももいる。沢山の不安や不満、心配事を抱えながら、学校に来ている子どもたちや保護者の方々の思いをしっかり聞くことがまずは大切だ。」

ここで語られたような実態、差別の現実はあまり届いてこない話である。このような実態があるからこそ、教職員の復興支援加配が必要であるし、子どもたちの思いをしっかり聞く時間的ゆとりが大切である。

熊本地震の影響を受けた高校生の状況をいくつか紹介したい(熊本県人権教育研究協議会調査より)。
◯地震後にアルバイトを希望する生徒や奨学金(緊急特別枠)を希望する生徒もいた。「緊急特別枠」については多くの希望があり、適用範囲外の「一部損壊」家庭などからも問い合わせがあった。
◯家が半壊し、仮設住宅に住む生徒が経済的理由から進路希望を進学から就職に変更した。
◯表面的には出てきていないが、もともと経済的に厳しかった生徒がさらに厳しくなり、進学のための資金を得るために卒業後アルバイトをしているケースも見られる。
◯地震の被害に遭った生徒に対しては給付型奨学金も作られたが、条件が厳しい上に採用数が少ない。

なかなか地震後の熊本の地で、苦しみを抱えて現場で日々葛藤している教職員の姿が
見えない。教職員のみならず子どもたちも含めてみんな弱音を吐けない状況にあるかも
しれない。
だからこそ、各学校現場で被災した生徒たちや教職員の状況、抱えている問題点などを把握し、具体的な生徒たちの姿から、県教委や文部科学省などに要求をしていくことが大切である。これからも「子どもたちのくらしの現実」「被災した人たちの思い」をしっかり見つめ、そこから見えてくることを課題として、1日も早い熊本地震からの復旧復興をめざして歩みを続けていきたい。

熊本県高等学校教職員組合 執行委員長  青木 栄

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