談話

労使関係制度検討委員会報告に対する書記長談話

2009年12月17日

労使関係制度検討委員会報告に対する書記長談話

2009年12月16日

 日本教職員組合書記長 岡本 泰良

12月15日、政府の労使関係制度検討委員会は、「自律的労使関係制度の措置に向けて」と題する報告(以下、報告と言う)をまとめ、本日午前中、仙谷公務員制度改革担当大臣に提出した。日本教職員組合は、公務労協に結集し労働側委員を通じて同委員会に意見反映してきたところである。

日本教職員組合としての自律的労使関係確立についての考え方及び報告に対する見解を表明する。

1.教育に係る自律的労使関係制度構築の意義について

行政改革推進本部専門調査会報告(07年10月)も指摘するように、自律的労使関係制度を構築することによって、使用者たる当局側及び被用者たる公務員の責任の自覚を促し、公務の能率向上、コスト意識の徹底、行政の諸課題に対する対応能力の向上が期待できる。

教育関係に従事する教職員にあっても、その労働関係において自律的労使関係の確立が求められることは、一般職の公務員と何ら変るところはない。日々、子ども・保護者・地域と接している最前線の現場教職員と政策立案を行う文部科学省・教育委員会等との間の意思疎通は極めて重要である。教職員に労働協約締結権を付与することは、この意思疎通をより強めることになる。その結果、個々の教職員のモチベーションが高まり、教育の質向上や困難な教育諸課題への対応能力向上等が図られることにつながる。このように、自律的労使関係を確立することは、教育の発展をはかる観点からも重要である。

2.協約締結権を付与する職員の範囲について

報告では、「職務の専門性・特殊性に照らし、協約締結権を付与すべきでないとする職員は特にない」(A案)の一方、「職務の特殊性に照らし、協約締結権を付与すべきでないものがあり得る」(B案)ことが示されている。ワーキンググループでは、「基本的にはA案でよいが」としており、協約締結権を付与すべきでない具体的な職種も例示されていない。

上記の「教育に係る自律的労使関係制度構築の意義について」に述べたことに加え、次の理由から、労働協約締結権を付与させる職員の範囲に教育公務員も当然に含めるべきである。

①1966年ILO・ユネスコ教員の地位に関する勧告において、「教員の賃金と労働条件は、教員団体と教員の雇用主の間の交渉過程を通じて決定されなければならない」(82項)などが出されていること。また、2008年、ILO・ユネスコ教員勧告適用合同専門家委員会(CEART)が、「教職に関連ある問題に応じて協議と交渉が今以上に制度化された仕組みを構築する措置が講じられるべきである」と勧告していること。

②国立大学法人や私立学校の教職員は労働協約締結権に加え争議権が与えられており、公立学校教職員に与えない理由がないこと。なお、先進諸国において一般公務員と切り離して教育公務員に対して労働基本権を制約している国はほとんど例がないこと。

3.交渉システムのあり方について

<他の任命権者の交渉権限の首長への制度的な一元化の可否について>

①公立学校教職員の労働協約を締結する当事者は、任命権者として、職員の任命、懲戒、免職、給与の決定等を行う権限を持つ都道府県教育委員会とすべきでありそれが自然である。

②その場合、交渉の当事者性を確保するために教育予算編成権を教育委員会に付与する必要がある。その実現が図られなければ、教育委員会に加えて知事も含めた交渉を行う仕組みとすべきである。なお、現在、自治体においては非現業・現業・企業局・教育等の壁を越えた「労連方式」による統一交渉が行われている実態もあり、労使当事者が共同で交渉・協議する意義は大きい。

<地方公共団体を超えた一元化の可否について>

①地方公共団体が提供する公共サービスは、全国どこにおいても一定水準が確保されなければならない。したがって、公共サービスを担う地方公務員の賃金をはじめとする勤務条件について、全国レベルで交渉・協議することは意義が大きい。

また、多くの地方公共団体があり、議会や住民に説明責任を果していくためにも、全国レベルでの交渉・協議の枠組みの設定は、賃金などの勤務条件についての正当性を与えることにもつながる。同時にコストの削減にも資することになる。

②教育についても、義務教育の機会均等と全国的な教育水準の確保が憲法上の要請となっており、こうした点から全国的に同様の職務内容・責任遂行している教職員の勤務条件について、全国的な水準を地方公共団体の連合体と教職員組合の中央組織が交渉・協議することの意義は大きい。

<文部科学省との交渉・協議について>

①公立学校の教職員に関しては、教育の機会均等や水準の確保、都道府県の財政負担能力への配慮から、義務教育費国庫負担制度がある。したがって、教職員賃金の水準・標準に実質的な影響力を文部科学省が持っていることから、文部科学省と教職員組合の中央組織間での交渉・協議も必要不可欠である。

②ILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」には、「教員団体は、教育の発展に大いに貢献することができ、したがって、教育政策の策定に参加させられるべき一つの力として認められる」とされている。したがって、教育政策の立案に当たって、文部科学省と教職員組合の中央組織間での労使協議制を構築する必要がある。

4.第三者機関のあり方について

賃金等の交渉の前に第三者機関が「参考指標の調査」「勧告、意見表明」を行うことは、現在の人事院・人事委員会の勧告と同様の機能を持つことになり、自律的労使関係制度の構築に逆行するものであり、反対である。また、未組合員の勤務条件決定については、当局の責任で決定すべきものであり、当事者でない第三者機関が関与すべきでない。

5.労使関係の透明性の向上について

公務員の勤務条件や運用の実態については、プライバシーに配慮し公表すべきである。なお、労使関係の透明性の向上のために講ずべき措置の内容としては、積極的に協約の公表等を行う必要があると考えるが、それは、法令等で強制するのではなく、あくまでも労使合意に基づいて決定すべきである。

以上であるが、労使関係制度検討委員会報告は、各論点ごとに選択肢を設けている。この報告を受けて、今後、政府が具体的に制度設計を行っていくことになるが、日本教職員組合の意見をふまえた対応をはかられるよう要請したい。また、労働三権のうち「争議権の付与」が残されており、政府において早急な検討を要請しておきたい。

以上

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