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熊本地震から1年①・・これまでとこれから

2017/04/11

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1.熊本地震から1年経過して
熊本地震から1年が経過した。日常の生活が時間の経過とともに少しずつ取り戻されていく中で、いまだに1年前と変わらない風景もある。当初に比べて減ったとはいえ、屋根をブルーシートで覆った家もまだまだ存在する。1年経過してようやく補修工事を始めている建物も多い。しかし、応急仮設住宅やみなし仮設住宅で生活せざるをえない方たちは、将来に対する不安の中で日々を過ごしている。
 地震直後、地元与党議員は「特別措置法の制定を要求していく」ことを声高に叫んでいた。しかし今では、県議会では野党から提出された特別措置法制定を国に求める意見書採択に政権の顔色を伺って反対するありさまである。今後の復旧復興に関しては、国ができる範囲の中での財政支援しか担保できておらず、長期にわたる復旧復興にかかる予算が確保できるかどうかは不透明である。新潟中越地震被害の際には4兆7,678億円の補正予算が組まれたのに対して、熊本地震は7,780億円である。仮設住宅が建設された16市町村の首長アンケートでは、復興までに4~6年と答えている首長が過半数で、被害が大きかった益城町は10年以上という回答である。また、全自治体が一番の懸念事項として「財源不足」をあげ、歳入不足額がどの自治体も多額になっている。
 損壊した家屋の解体作業も進んでいない。公費で解体が行われる半壊以上の住宅については、昨年10月末現在県全体で解体進捗率は14.6%、今年2月末現在で54.5%という状況である。学校の施設設備も被害が大きいところほど大規模な補修あるいは建て替えが必要となり、3年計画で工事が行われるため、卒業式を母校の体育館で実施できないところもあった。地震から1年経過しても、学校施設の復旧工事は受注業者が決まらない「入札不調」が相次いでいる事態にあり、復旧工事が大きく遅れている。その背景には、人件費や資材価格が上昇し、技術者も不足している現実があり、「安ければ職人が集まらない」という事情がある。さらには、部活動や体育の授業、学校行事の会場に体育館が使えないため、不自由な状況にある学校も県下にはまだまだ多いのが現状である。
 また、県内の公立小中高校と特別支援学校の児童生徒の中で、熊本地震の影響で心のケアが必要と判断された児童生徒が昨年11~12月の調査で1,247人であった。地震発生当初の4,277人に比べると減少しているが、地震から1年を迎える今もまだ1,200名を超える生徒が支援を必要としていると見るべきである。
 このようにさまざまな課題が山積している中、熊本地震後にも全国各地で災害被害が続出したこともあるが、次第に熊本地震被害の報道が少なくなっていった。私たちはあくまで特別措置法の制定を国に求めながら、現場の実態をもとに具体的な要求を継続して行っていきたい。

2.全国連帯の支援に感謝!
1995年1月17日未明、兵庫県神戸市や淡路島を中心に発生した大地震は、死者6,434名という未曽有の被害者数であった。日教組は、兵庫県内の多くの学校が避難所になっている現状を見て、避難所対応にも追われる教職員の負担軽減のために、「教育復興ボランティア」を全国の教職員組合に呼びかけた。熊本高教組は、全国の中でもいち早く参加する意思を表明し、結果的には2月5日~3月5日まで1か月間にわたり、熊本から44名の高教組組合員が神戸市須磨区の若宮小学校で避難所での業務にあたるボランティアとして参加した。
 そして22年後の熊本の地にも、同じように全国の教職員組合から熊本市内6か所の避難所支援にボランティアとして駆けつけていただき、6月2日から約1か月間にわたり、のべ160名の方々にご協力いただいた。また、8月には益城町の小中学校において校内の環境整備や登校後の子どもの支援などに全国からボランティアを派遣していただいた。さらには、自分たちの経験を伝えに地震後すぐに駆けつけていただいたのは、兵庫、岩手などの地震被害を受けた各教職員組合であった。自分たちが助けてもらった恩を忘れずに、他の被災地に対して支援で返すという姿勢に感銘を覚えた。全国連帯の仲間の心強さを感じながら、一歩ずつ前へ進んでいくエネルギーをもらっている。あらためて、この場を借りてお礼申し上げたい。

3.熊本地震発生当初の状況
 熊本地震により会館が被災し、約1か月にわたり高教組書記局機能が停止した。ようやく、6月に分会代表者会議を開催することができた。各分会からは「地震直後の勤務に関しては年休での取得を管理職も言っていたが、高教組から通知が出ていることを示したところ全職員に通知に関して説明させることができた」、「益城町から通学してきている生徒が100数名いる。スクールカウンセラーとの面談を希望する生徒もいる。6月から1名来てもらい、心のケアにあたることになっている」、「通信制高校では後期からの転編入に関する問い合わせが多い。地震をきっかけに経済的に厳しくなったという生徒で私立高校からが多い」、「スクールカウンセラーは本来1か月2回だが、毎週来てもらっている。学校再開して1ヶ月経過して、毎週木曜日のカウンセリングは予約で一杯である。一方、被災した中で働いている教職員の支えも必要」などの実態が出された。被災したにもかかわらず特別休暇や職専免が取得できない学校の実態については、その都度県教委と折衝を重ねて改善を図ってきた。また、心のケアに関しては比較的我慢をしている生徒や教職員が多い現状の中で、さらにどのようなサポートをしていくべきかを継続的に県教委と協議を重ねていった。そのような対応に忙殺された日々であった。
 また、熊本高教組が所有している会館は、4月14日の前震による被害はあったものの補修により回復可能な範囲であった。しかし、16日未明の本震により会館は大きなダメージを受け、最終的に「大規模半壊」の罹災証明書発行となった。そのような中、公立学校共済組合熊本県支部のご厚意により、5月2日に急遽水前寺共済会館3階に部屋を借りて事務所を移転した。被災した会館については、組合員討議にかけた結果「公費解体」の方針を決定した。しかし、住宅の公費解体が進まない中、解体が始まるのは早くて1年後、遅くて2年後とも言われている。

4.熊本地震後に取り組んだこと
○ 地震発生直後の被災した教職員の服務について
地震発生直後は住居が被災し、家族の避難所・食料・水確保などのために出勤が困難であった教職員が多数いた。しかし、学校によっては該当の教職員に対して何ら特別休暇が取得できることの説明や、県教委が発出された被災した教職員に対する職務専念義務免除の臨時措置の通知文を示すこともなく、年休取得で対応させていた。そのような分会組合員からの指摘を受けてすぐに県教委に申し入れ、管理職への指導を要請し、該当校ではその後すぐに改善が出来た。

○ 被災した高教組組合員への災害見舞金支給について
住居家財被害(一部損壊も含む)及び2週間以上の入院(本人・配偶者・父母・義父母・子)をされた場合に対する見舞金申請を受け付け、組合からの災害見舞金をただちに罹災状況に応じて支給した。

○ 被災地学校支援の教職員加配について 
熊本地震後、熊本県には他県からの長期派遣(3月末まで)で40名(教諭21、養護教諭19)が義務制の学校に配置されていた。また、県内派遣として同じく義務制では10名を被災した学校へ配置している。県立学校の場合は、益城町からの通学者が多い1校に養護助教諭が加配として配置された。また、8月10日に日教組の教育行財政部長と協議を行い、県立学校で求められる教育条件整備に関わる要望、すなわち施設設備面の早期修復や阿蘇地域の通学にかかわる国からの補助などを要望し、それを受けて日教組も文科省との交渉を実施した。

○ 阿蘇地域への登下校代行バス運行改善要請について
熊本市内の夜間定時制高校に阿蘇地域から通う生徒が学校終業(21時10分)後に乗れる代替バスがないという問題が発覚した。そこで、「国民の足を守る県民会議(交通運輸関係の労働組合を中心に組織されており、高教組も加盟組織の一つ)」により、定時制生徒のみならずすべての生徒の利便性を高めるための豊肥本線不通に伴う代替バス運行便数の改善等を要請する文書を8月3日に県教育長に提出した。結局、夜間定時制生徒に関しては2学期から終業後のみ鉄道不通区間(大津駅から阿蘇駅)のタクシー代を卒業まで負担する形にできた。

5.熊本地震にかかわる継続的な教育復興のための要請書提出・交渉
 地震直後の4月28日及び9月20日の二度にわたり、宮尾千加子教育長に対して熊本県教組・高教組委員長名で「熊本地震にかかわる継続的な教育復興のための要請書」を提出した。9月の要求項目は、①子ども・教職員の健康と安全確保(継続的な心のケアの実施、SCやSSW等専門的スタッフの配置)、②被災した子どもたちが安心して学習できる場の保障(給付型奨学金、学校給食の完全再開、交通遮断等で通学が困難になった生徒への支援)、③教職員配置を含めた教育環境整備(国への復興支援加配を最低10年要求、学校施設の早期復旧、事務職員の加配、県内外からの教職員派遣の継続、教職員の事務負担軽減、本人の希望優先した人事異動)などであり、今後も継続して要求・交渉を重ねていかねばならない。

6.熊本の今・・そしてこれからの課題
熊本高教組は、全国各地より見舞金をいただいたが、その見舞金の一部を原資に、年度末の校納金納入が困難な生徒への支援カンパに取り組むことを決定し、卒業学年を対象に実施した。地震後に生活が厳しくなった生徒の事例が私たちの調査でも報告されており、日々の暮らしの厳しさに地震被害が重なって、さらに深刻になるケースが増えていたからである。
 県内のひとり親家庭に支給される児童扶養手当受給資格者を対象にした調査結果によると、収入が地震前に比べて減少した家庭が18%、その2割は50%以上減少したと回答。また、熊本市は2017年度に子どもの貧困実態や震災後の生活環境の変化に関する調査を実施し、小中学生の就学援助率(16年度で15.4%)が年々増加する中で、子どもの貧困対策に取り組むためとしている。そのような中、国が予算の3分の2を補助して被災した生徒を対象にして実施する「給付型奨学金制度」は昨年度から導入されたものの継続される保障はなく(2017年度は継続)、被災した家庭を中心にした生活支援が今後の大きな課題となってくるであろう。
 また、教職員をめぐる状況も被災地を中心に多忙化に拍車がかかっており、負担軽減のための人的加配措置の継続・拡大などが求められている。自分のことはさておいて身を粉にして動いてきた教職員の心のケアも大切である。しんどい時に悩みを相談できる職場体制づくりも求められる。
今後とも、私たちとしては各学校現場で被災した生徒たちや教職員の状況、抱えている問題点などを把握するために調査活動を行っていかねばならない。具体的な生徒たちの姿から、県教委や文部科学省などに要求をしていくことが大切だと考えるからである。今回の熊本地震に際しては、鉄道不通のため交通手段のないわずか一人の生徒のためにタクシー代を卒業するまで負担する措置が取られた。熊本県の蒲島知事は「県民の幸福量増大」をスローガンに掲げているが、まさに一人のために精一杯の取り組みを行うことが全体の幸福にもつながっていくという道筋を探っていかねばならないと思う。まだまだ復興に向けては長い年月が必要である。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」という理念を忘れることなく、今後も取り組みを進めていきたい。

熊本県高等学校教職員組合
書記長 青木 栄

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