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学校からはじめるワークルール~安心して働き続けるための知識をどう学ぶか~

2019/01/25

写真 若者が直面している労働問題は、賃金関係(18.2%)、差別等(16.3%)など深刻です。

写真 新規学卒者の離職率は高く、その理由は労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった、人間関係がよくなかった、などです。

写真 若者が就労に関して教わりたかったことのなかに、「労働者の権利など、労働に際しての必要な基礎的情報」が18.7%にのぼります。

写真 残業代の不払いが33.9%と「ブラック企業」問題が深刻であり、ワークルールがその要因のキーワードになっています。

写真 アルバイトで労働要件について困った時には、ぜひ専門家や相談窓口などに連絡を!

毎日メディアカフェの教育シンポジウム「学校からはじめるワークルール~安心して働き続けるための知識をどう学ぶか~」が日本教職員組合、日本労働組合総連合会(連合)の協力をうけ、11月3日に開催されました。

「平成30年度学校基本調査(速報値)」(文科省)では、就職者総数は中学校卒業者で2271人、高校等卒業者で18万6331人となっています。20歳代からは、賃金未払い・最低賃金、パワハラ・セクハラ等の差別、年次有給休暇・労働時間などの労働相談が多く寄せられており(2017年連合調査による)、若者の労働をめぐる状況には課題が山積しています。安心して働き続けられる環境をつくるうえで、社会に出る前に働く人の権利を含めたワークルールについて学ぶことは重要な課題になっています。

【シンポジウム】
はじめに谷口真由美さん(大阪国際大学)が基調講演しました。講演タイトルは「知らんと損するワークルール~知らんまま社会に出るつもり!?~」。谷口さんはまず、人権とルール、人権をめぐる歴史、日本国憲法の人権規定、ワークルールの重要性について話しました。その中で、義務教育のなかで法、ルール、権利を教える必要があることを指摘しました。また、「権利がないがしろにされている人は他の人の権利への意識が希薄になります。学校の先生の労働環境もブラックだと思います。自分たちの権利が守られていない状況で、権利を教えるのはしんどいと思います。大事なのは、自分たちの権利を主張することです。現在の労働者の権利獲得がないと、子どもたちに教えられない。」と教職員の働き方にもふれました。そして、「ブラック労働のアルバイトで、バイト先が就業規則を出してくれない。それがアウトだと知らない。学生に源泉徴収票を持っているかと聞くと、『何ですかそれ、誰にも教えてもらったことがない』と言う。出してくれないバイト先はやめたほうがいい。法やルールは知らなかったら損をすることがたくさんあります。だから、公教育で教えなければならない。考えるためには知識がいる。これは学ばなければならない。勉強する機会がないというのは権利が侵害されているということです。ワークルールを知らないまま、働くことは雇用者の得になります。労基法を見ると、勤労者の権利が強い。労働者をやめさせるのはいろいろと条件がありますが、労働者側は通告すればよいだけです。勉強すればするほど、こんな権利があると気づきます。」とワークルールの重要性についても述べました。

続いて、労働問題を長く取材してきた東海林智さん(毎日新聞)が「働くことは苦役じゃない。人間らしく働くために知っておきたい働くルール」と題して講演しました。「社会部で十数年、労働問題を取材してきました。ルールを知らないで社会に出て行く若者は不幸だと思います。ワークルールを手に持って社会に出てほしい」と前置きして、取材に基づいた報告をしました。労働は商品かと問いかけ、「ILO(国際労働機関)の1944年フィラデルフィア宣言は、労働は商品ではないと宣言しました。労働は商品ではないということを担保するルールがあります。労働基準法、労働契約法、労働組合法、最低賃金法です。ワークルールを知らないことは、商品のように扱われる状態を放置することです。」と指摘しました。また、「労働組合が大事だと認識してほしい。権利を行使していない人が子どもに権利を教えられますか。労働組合は憲法で保障された権利です。偏向教育だと言われることは全く納得できない。なぜ現場で労働組合のことを教えないのか。職場で困ったことがあっても、労働組合に相談していない。ワークルールを知らない人がほとんどです。多くの労働者が、困ったときに有効なアドバイスを受けられず、働く権利を侵害されています。学校で労働組合についても堂々と教えてくれると、救われる若者が出てくると思います」と労働組合の重要性を強調しました。

【パネルディスカッション】
谷口さん、東海林さん、連合副事務局長の山本和代さん、教員である齋藤俊夫さんがパネルディスカッションをしました。コーディネーターは毎日新聞社の斗ヶ沢秀俊・毎日メディアカフェ担当が務めました。

山本さんは「新潟県教組から日教組に行き、今は連合で副事務局長を務めています。若者がどんな課題に直面しているのか、ワークルールの必要性を話したい」と前置きし、次のように話しました。「連合なんでも労働相談ダイヤルは、47都道府県どこでも受けられます。0120-154-052、いこうよ、れんごうに。電話をかけると、アドバイザーが受けてくれます。秘密厳守です。勤務時間が1日12時間で残業代が出ない。有給休暇が取れない、休憩が取れない、これも労基法違反です。やめたいのにやめさせてくれない。これは民法違反です。こういう問題が起きたときに、労働相談を知らないので諦めている人がたくさんいます。ワークルールを知っていれば、苦しまなくてもよかったのに、何かできたのにということがあります。ワークルールを知らない人が多いというデータを示します。会社は労働者に対して労働条件を書面にして通知しなければならないことを、就活生の3人に1人は知らなかったと答えています。子どもが1歳になるまで育休を取得することができることも40%しか知らない。時間外労働の割増率、36協定(労基法36条に基づく時間外・休日労働に関する協定届)も知られていない。連合では、大学で寄付講座を開いて労基法、雇用問題などの授業をしたり、ネットでワークルールの重要性を伝えたり、若者応援便り『YELL』を発行したりしています」

齋藤さんは「教え子を泣かせてはいけないと思っています。高校生の新規採用時の差別問題について集約しました。面接でこんなことを聞くの?という質問がありました。入る段階で差別が行われている。これは直さなければならないと思いました。就職差別の問題を授業でしました。差別に立ち向かえる生徒をどう育てるか。『もし、差別的な質問を受けたら、どうしますか』という質問に、多くの生徒は『差別的質問だと思っても、答えてしまう』と回答しました。就職にマイナスになったらどうしようという気持ちがあると思います。『差別につながるから答えません』と勇気を持って言う高校生もいる。そして、私のことですが、午前7時半に学校に行き、午後8時まで仕事をしています。土日は部活動です。給料を労働時間で割ると、時給1000円いくかいかないかです」と話しました。

続いて、4人が討論しました。まず、「ワークルール教育の必要性」です。東海林さんは「社会に出る段階で基本的ルールを知らないと、労働者としての人生が変わってくる。どこに相談に行けばいいのか、最低限そこだけでも知ってほしい。知り合いの高校の先生は、卒業式の日にクラスの子に県労働局のパンフレットを渡しました。それだけでも知っていると違います。親も友人も知りませんから」と述べました。齊藤さんは「中卒の子、高校生でアルバイトをする子どももいます。いつワークルールを学習するのでしょうか。やはり中学校までで最低限のことを教えなければなりません。最初から大きなことはできなくても一歩前に踏み出し、子どもたちに伝えていく必要があります」と話しました。山本さんは「寄付講座でワークルールのことを話します。学生の感想文の中に、『アルバイトをやめてもよいことが分かって良かった』というものがありました。大学生でこうですから、アルバイトの高校生は分からない中で労働の搾取をされているのではないかと思います」と語りました。谷口さんは「社会に出てから法律を学ぶ機会がない。困ったときにどうすればよいかという地図があればいい。労働のルールを学校で教えておいてもらいたい。自分を守る権利を知ってほしい」と述べました。東海林さんは「労働者を守る法律があっても、労働組合がなければ労働法が機能しないという面があります。これは法律違反だと思っても、労組がなければ、言えずに黙ってしまう。日本の法律は労組を作りやすくなっていて、2人いれば労組ができます」と労組の存在の重要性を指摘しました。

ワークルール教育を進める課題と展望について、齋藤さんは「教員は忙しく、やることが多い。労働教育をしようとすると、何かを削らなければならない。課題はどうやって時間を確保していくのかです。小さな一歩を踏み出すことが大事です。それを見た仲間がついてきてくれるのかなと思います。同じ志を持つ仲間を増やしていく。そういう姿を見れば、子どもたちがついてくると思います」と語りました。東海林さんは「学校に呼ばれて労働についての授業をすることがあります。毎日新聞に要望してくだされば、無料で行きますので、よろしくお願いします」と呼びかけました。山本さんは「いま何とか教育というのが42ぐらいあるそうです。そういう中で労働教育を大事だと思っていても、なかなかできなに実態があります。学校における働き方改革が必要だという流れになってきました。雇用と任用という言葉があります。公務員は任用です。法律の建て付けが違い、スト権は認められていません。国際社会ではこんな国はなく、是正の勧告を受けています。教職員の働き方改革は今がチャンスだから進めなければなりません。一方で、教職員自身が労働教育をできるよう、アンテナを持たなければならないと思います。斎藤さんのような方が1人でも多くなることを期待します」と要望しました。谷口さんは「先生方の人権が保障されていない中で、子どもたちに権利のことを話したところで、ダブルスタンダードになります。子どもたちに、建前でしゃべっていると見抜かれてしまう。世の中は変わらないというあきらめにつながりかねない。自分たちが闘っている姿を見せることも大事だと思います。権利は勝ち取りにいかなければならない。人権とは公権力に抗うことです。システムに問題があるのなら、システムを変えなければならない。システムを変えるのは人間を変えるよりもずっと簡単です」と話しました。

ここで、会場からの質問に答えました。「担任をしていて、教え子がバイト先で不利益を受けたときにどう救ってあげたらよいのか」との質問に、山本さんは「連合の0120-154-052でもいいですし、いろいろな相談窓口があります。ラインでの相談にも応じています。相談するところがある、一人で困らなくてもいいということを伝えてほしいと思います」と回答しました。「教育公務員は政治的な課題を授業で扱うとバッシングされるのではないかと臆病になっています。堂々と教えられる法律を教えてください」との質問に、谷口さんは「政治的な課題を扱わないのは憲法の教育をきちんとしていないということです。政治的だとバッシングしてくるのは政治家ですよね(笑い)。バッシングに正当性がないのに、びびることはありません」と答えました。

最後に、パネリスト4人が参加者へのメッセージを述べました。東海林さんは「皆さんが一所懸命働くのは尊いと思います。しかし、24時間の8時間は仕事、8時間は睡眠、8時間は自分の時間という3分割のうち、何時間も余計に働くことによって、睡眠時間や自分の時間を奪われていませんか。自分の時間を大事にしてください」、山本さんは「情報は人を強くすると思います。困ったら我慢をしないで助けてと言えばいい。誰かが助けてと言ったら、助けようよというようになればいいと思います。それが労働組合であるとも思います」、齋藤さんは「子どもたちが見る働く人の姿は誰かというと、最も身近なのは学校の先生だと思います。子どもたちに学校はブラックだと言わせてはいけない。私たちが働きやすい職場環境をつくっていく必要があります。そのためには、私たち自身が労働問題、労働組合に関心を持つことが大事だと思います。すべては子どもたちの笑顔のために、ともにがんばりましょう」、谷口さんは「人権は従来、自由権と社会権に分類されていました。自由権は国家からの自由です。労働や教育は国家への自由です。国家が介入しないほうがよいのでなく、国家が積極的に関与しなければならない。困った労働者がいるときに、それはワークルールに違反する雇用者がいるからだと言って、手を取り合う人がいなければなりません。そのためには、学びが必要です。人権は教育でしか醸成できません」と語りました。

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