談話

奨学金予算の確保・増額を求める書記長談話

2007年11月12日

奨学金予算の確保・増額を求める書記長談話

2007年11月12日

日本教職員組合 書記長 中村 譲

財務省は来年度予算で文部科学省の奨学金事業予算を削減する方針を固めたとの新聞報道がなされた(10月29日産経)。削減の理由を、奨学金を遊興費に転
用する学生が目立ち、苦学生支援という本来の意味が薄れつつあり、回収不能に陥った延滞債権総額も急増しているからとしている。そのため文科省が来年度の
概算要求で、前年度を約210億円上回る1,439億円を計上している奨学金予算を削減するという。しかし、どれほどの事実による判断であろうか。

OECDが今年、9月に公表したところでは日本の高等教育予算は加盟国のなかで下から2番目、平均がGDP
の5.0%に対して、日本は3.5%にとどまっている。またOECD諸国のうち北欧諸国など4分の1が高等教育で授業料を徴収していないことと比較して
も、日本は特に教育費のうち生徒・家庭による私的負担の割合が25.8%とアメリカ、オーストラリアに次いで高い現状である。

今日おこっているのは、国の補助を受けている高校奨学金で受給希望者が増加する一方、割当率は低下している
という問題である。景気の回復が唱えられるものの、格差社会を映出しその影響は一般の家計には及んでいない現実である。このことは授業料減免者の増加とも
軌を一にしている。また、回収にかかわる延滞債権総額の増加という問題も有利子貸与が多い日本の奨学金では、この間の厳しい高卒・大卒者の就職状況、さら
には終身雇用が崩れ非正規雇用が増加するなど雇用制度の変容、また就業継続に困難を抱えることの多い女性受給者の状況などを反映している。このような実態
を見ず、一部をとらまえて削減することは極めて問題である。

本来、高等教育への支出は単なる個人的投資ではなく社会的な投資でもあり、高等教育が果たすべき公共的な機
能は公共支出によって保障されるべきである。すなわち国連人権規約に謳われるように高等教育・中等教育の漸進的無償化がはかられなければならない。当面、
無利子奨学金などを増額し、安心して就学できる環境が保障される必要がある。また都道府県に移管された高校奨学金では中学の成績によって受給が左右される
「成績条項」のある県が多いが、中学時代に十分学ばなかった子どもほど高校で学ぶことが保障される必要があり、成績条項は撤廃されるべきである。これらを
考慮し希望する学生・生徒が受給できる制度にしていくには、むしろ奨学金予算の確保と増額こそが求められる。

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