弁護団コラム

JTU弁護団コラム(第9回) 著作物の利用について

2022年06月01日
教職員: 先日、組合主催の研究会で報告をする際に、担任学級の子どもの作文をコピーして配布しようとし
  たところ、運営担当者から子どもと保護者の承諾がなければ配布は遠慮して欲しいという指摘がありました。とても参考になる素敵な作文だったので、研究会後にコピーを確実に回収するから大丈夫ではないかと問い合わせたのですが、それでも著作権の問題があるので駄目だと言われました。それ以来、著作権の問題は難しいと感じていますので、今日は幾つか質問させてください。
弁護士: はい、承知しました。今のお話しは著作物の複製権の問題です。子どもの作文は、作者の子どもを
  著作権者とする著作物に当たるので、無断複製の禁止が原則です。研究会後にコピーを回収しても、いったんは複製して配布しているので認められません。
教職員: 学校の授業中に有名な詩人の詩などの文学作品のコピーを他の子どもに配って紹介することはでき
  たはずですが、どのように違うのでしょうか。
弁護士: 複製の目的が違います。学校の授業で使用する目的の場合には、著作権法で複製することが例外的
  に許されているからです。学校教育の公共性・重要性と学校教育活動での著作物利用の必要性から認められている例外です。
教職員: では、研究会で子どもの作文を研究対象にする方法はないのでしょうか。
弁護士: 研究会の会場のスクリーンに作文を映しながら説明することは可能です。組合主催の研究会であれ
  ば営利を目的としていませんので、上映のほかにも、口頭で作文を朗読することもできます。
教職員: なるほど、そうですか。ところで、最近の研究会は、新型コロナウイルス感染症対策で、会場参加
  とWeb参加併用型のハイブリッド方式で行われているのですが、会場のスクリーンに映すことができるのでしたら、Web会議システムの画面上で作文を共有することも可能と考えていいのでしょうか。
弁護士: Web参加が数人規模であれば可能ですが、それ以上の多数になるとできません。
教職員: えぇっ、どうしてなのですか。
弁護士: Web会議システムで著作物を共有することは、インターネット上で多数の人に向けて配信をする
  ことになるからです。著作権法では、これを公衆送信と呼びますが、営利を目的としなくても使用の対象範囲が広がるため、公衆送信はできないことになっています。
教職員: うーん、難しいですね。
弁護士: 学校教育では、著作権者の承諾なく授業教材や試験問題として著作物を利用することが認められて
  いるので、普段教職員のみなさんは著作権をあまり意識されていないかもしれません。しかし、学校での教育利用は著作権法の例外です。著作物利用の原則は、著作権者の承諾の下に利用することなのです。
教職員: わかりました。
弁護士: 最後に、重要な注意点があります。これまではもっぱら著作権の観点から問題点をお話ししました
  が、子どもの作文を研究会で利用する場合には個人情報や公務員の秘密保持の問題にも配慮しなくてはなりません。作文中に子どもの生い立ちや家族のことなど個人に関するセンシティブな情報が含まれている可能性があるからです。そこで、作文の内容に照らして利用の適否を検討した上で、子どもや保護者の同意を得るなどの十分な配慮が必要になります。
教職員: よく注意します。子どもに関するセンシティブな情報に配慮することは、授業で子どもの作文を使
  用する場合も同じですね。
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