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HALF TIME ゆみさんのメンタル・スケッチ拡大版 感情労働からくる燃え尽きの予防と希望

2017/08/25

写真 1998年度からの10年間で、精神疾患で休職する教員は約3倍にもなっています。2008年度には5000人を越え、休職者全体の約6割を占めています。以降もこの傾向は変わっていません。

写真 心身の不調を訴える労働者の割合は、1日の所定外労働時間が0時間では46・6%であるのに対し、3時間以上5時間未満では83・2%と8割を越えます。この調査では公立学校の教職員は対象に含まれていませんが、精神疾患は長時間労働がもたらす深刻な健康影響であることが示されています。先月号で紹介した通り、日本の教員は平均して1週間に53・9時間も働いています。心身の不調をきたしやすい労働環境にあるといえるでしょう。

写真 ストレスに関して、①仕事を終えたとき疲れきっている、②疲れてぐったりすることがよくある、③朝、起きた時から疲れきっている、④ゆううつな気分である、⑤自信が持てなくなってきた、という5項目を5段階(そう思わない、どちらかといえばそう思わない、どちらともいえない、どちらかといえばそう思う、そう思う)で選択する調査を行いました。その分布が縦軸に示されています。それを睡眠時間との関係について校種ごとに確認したところ、小・中学校では睡眠時間「5時間未満」の層でストレスが最も高く、全体的に平均睡眠時間が「6時間未満」の層でストレスが高い傾向にあることがわかりました。

メンタルヘルスは今や社会全体の共通課題になっています。さまざまな職種のなかでも、教職員の精神疾患による病気休職者数は5000人超と多く、休職者に占める割合も約60%と高くなっています。その要因ともなっている教職員の超過勤務と多忙化は社会問題になっています。HALF TIMEで好評の「ゆみさんのメンタル・スケッチ」を拡大し、「感情労働」をキーワードに、教職員に多い「燃え尽き」の予防法についてゆみさんに解説していただき、また、教職員の皆さんへのメッセージをいただきました。

〇感情労働〇
感情労働とは、感情を使って直接人と関わる仕事において、職業上適切と求められる感情にあわせて、自らの感情を管理して、自然な感情を抑制することが求められる労働・働き方の概念。一般的な頭脳労働に比べ、労働負荷に感情のやりとりが大きく作用する。社会学者のHochschildが提唱して以来、精神的な負担、重圧を負いつづけたにもかかわらず、労働が終了した後も達成感や充足感などが得られにくい状況が続くと、精神的に消耗しやすいので、「燃え尽き」を予防する視点からも注目されるようになってきました。
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初期のころには、その典型として挙げられてきた対人サービス業において、相手から投げられた悪声が頭を離れないことを防ぐために、こちらの態度をマニュアル化する、などの予防策もいわれました。が、マニュアル化は教育現場での感情労働には一般にそぐわないでしょう。
むろん、どんな仕事でもこちらの感情を抑えたり、管理しながらあたる側面はあるのですが、その程度として、福祉・医療と並んで、教職がとても高い職種であると、近年認識されてきたのは当然のことと言えましょう。
常に教員として適切な表情、態度で接しようと、ひたむきにやってきた結果、家に帰っても、仕事上の強い「ネガティブな感情」が際限なく追いかけてきて、割り切れと言われても難しいことがあります。しかも、現代の教員の「感情労働」は児童生徒、保護者との直接的なコミュニケーションのみならず、SNSなどを通しての多様なレベルに渡るのでなおさらでしょう。
感情労働による感情の疲労、傷は、通常の休息、休暇によって一筋縄にほぼ回復とは言い難いものですので、その対策を一人ひとりが持つことが大切になります。
ただし、教職においては、「感情労働であること」のマイナス面だけでなく、そこを適切に、自律的に使い、教育という観点からも、個人の健康の観点からも、むしろ好ましい方向へもっていくこともできるのも事実だと思います。

〇燃え尽き症候群〇
「燃え尽き症候群」という言葉は、いろいろな意味で使われてきましたが、精神科医のFreudenbergerによると「持続的な職業性ストレスに起因する衰弱状態により、意欲喪失、情緒荒廃、疾病への抵抗力の低下、対人関係の親密さ減弱…」などとされました。
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もう少し具体的に言うと、自分の持っているエネルギーのほぼすべてを投入して、一つの仕事に献身的に取り組んできた誠意と理想をもった人が、ある時、自分自身を燃えつくしたかのように「疲労困憊だけでなく無気力・意欲喪失」に陥ってしまう、うつ病にも類似した状態のことです。
その原因は「慢性的な、長期的なストレス・緊張・不安・周囲の援助の希薄さ」と言われています。
これらの言葉は、研究などの場では、当然厳密に含むものを定義して始めなければならないのですが、ここでは、我々が直感的に「感情労働」の側面を受けとめ、「何とか燃え尽きないでこの仕事を続けていきたい、子どもたちのためにも、自分のためにも」、と燃え尽きを予防する手立てを考える時のひとつの言葉として、考えてみました。

感情労働による、燃え尽きの予防
燃え尽き、という言葉から、私は「火」を連想します。人間にとって極めて大切な「火」に自身を燃やされることなく、活用して健康を保っていく、心の火事を予防する、と考えることは(精神科医もこの感情労働の意味において、ハイリスクと言えるので、考えることが多いのですが)、自分自身が取り組みやすい形になると思ってきました。
消防の統計では、火事の原因として、たき火、放火、たばこ、コンロ、ストーブ、エアコン、扇風機、溶接機等々が挙げられています。
扇風機やエアコンは温度を下げて冷やそうとするものですが、それが原因とは皮肉です。心をクールダウンしているとばかり信じてきた自分の行動や習慣が、心の発火の危険を増していないか、時に振り替えることが大切なのだと思います。タバコなどの習慣も同じくでしょう。
心の、火災報知器も定期点検を忘れない。
放火は未然に防ぎがたい側面もあるので、余計に予防できることは何かと考えてしまいます。家の周りに燃えやすいものを置かない、暗い場所を作らない、一軒だけでは無理なことも、地域での日頃からの協力が大切。日頃からサポートしあう周囲のなかまの大切さを思います。
また、溶接機や発火しやすいとわかっているものを扱うときは、前もっての用意、安全対策を他のものよりも慎重にするのは当然。心の発火も、当然、危機レベルにメリハリを持って当たる。
最後に、寝る前に火の元を確かめるごとく、「心の疲労も宵越しにしない意識」が疲労の蓄積を防ぎます。その日の疲れをすべて取ることが出来なくても、可能な限り、その日の心の疲れは寝るまでに自分なりの方法で手当をして寝る。
こういった、すべての脳の疲労には「睡眠」です。初期のぼやは万一起こっても、消し止める体力を保つには、毎日の「睡眠」が基本なのは言うまでもありません。
山火事レベルになってしまっては消火が難しく逃げることが第一になるかもしれませんが、予防できるレベルで食い止めたいものです。
心の燃え尽きは食い止め、そして、本来人間にとって大切な「火」を豊かな方向に使いこなしていければ、感情労働についたことは誇りになる!と、心に余裕のある今夜は思えるのでした。

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